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【連続大戦小説】俺と大戦と夏休み 第4話:みんな同じなんだ

by
渡辺台王
渡辺台王
 朝飯食って、チャリ乗って、ゴーワンの前でジュンと待ち合わせ。

 普段からやってるはずなのに、シリアルは味が薄かったし、ペダルは重いし、店の前で立ってるジュンも顔色が悪い。
 昨日は結局興奮して寝れなくて、同じデッキ使ってる演舞場の動画見て、ローダーの裏側の汚れを徹底的にピカピカにした。
 やれることはやった、たぶん。


「おはようテンマ」
「おう…。店入んねぇの?」
「ヤバいよ、緊張しちゃうよぉ~」
「二人で入ろうぜ、もう俺たちに退路はねぇんだ」

 開店したばっかりの店内はまだ人も少なくて、なんだかちょっと薄暗い気がする。深呼吸しながらメダルコーナーを進むと、いつも置いてある英傑大戦の立て看板に白い張り紙。



【告知】
 8月25日(金)は『英傑大戦ゴーワンNo,1決定戦!』開催のため、当日の英傑大戦の営業は以下の通りとなります。

 ・大会開催時間  10:00~15:00(予定)
 ・通常営業再開  15:00~

 ※)大会の進行状況により、営業再開の時間が前後する場合がありますので予めご了承ください。



 遂に…遂に来た。来てしまった。
 
 奥の大戦コーナーもいつもと全然雰囲気が違う。
 アナウンス用のマイクとスピーカーが置いてあって、椅子は左右端の筐体しかなくて、その前で何人かの人が受付を済ませてる。
 受付してるのはいつもプリンターエラーになると飛んでくる若い店員だ、マイクも付けてるしこの人が実況もするのかな。

「大会出場の方ですか?こちらでエントリーの確認をしたら、くじを引いてください!」
「は、ハイ!『てんま』と…」
「『ジュン将軍』です!」
「…はい、確認しました!クジは2番と9番ですね、じゃあ『てんま』君主は2戦目、『ジュン将軍』君主は5戦目の出場です!試合前のコールの時に席に着かないと失格になるので注意してくださいね!じゃ、頑張ってください!」

 
 うぅぅ、2戦目か、すぐじゃねぇか!部活の試合よりキンチョーするぅ!!

 トイレに何度も行って、ソワソワしながら昨日の頂上対決を見てると、大会は時間通り始まった。
 少しずつ見物人が増えてく中で、大会はどんどん進行してく。ジャンプしてみたり首回したりしてみても息苦しさが全然取れない。初戦は開幕の端攻めがバッチリ決まって、30カウント落城勝ちで片が付いたらしい。


 さぁ、やるぞぉ!

 コールされた瞬間、席に飛びついて台を拭く、椅子の高さがしっくりこないけど調整する余裕もない。
 カード登録の時に後ろを振り向いてみたけど、なんとかジュンの横に師匠がいたのが分かったぐらいで観客の顔も全然見えない。

 ヒカリンさん、見ててくれてるかな。

 カード登録完了。あぁ、指が震える。手汗スゴイ!
 でも俺が独りでやるしかねぇんだ。俺は勝つ!勝ってカッコいいとこ見せてやる!!

 マッチング相手は俺より格上、経験値スコアは2倍強。
 相手のデッキは司馬昭・司馬師・小西行長・白夜刀のカンナ・王濬、最近よく見る5バラ司馬昭デッキだ。
 こっちのデッキは山県・エレン・郭嘉・平宗盛・望月千代女。相性はたぶん五分五分、でも100戦以上このデッキで練習した!きっと勝つ、いや、勝つしかねぇ!!
 指が震えてカード配置が上手くいかねぇ、しっかりしろ!深呼吸!!


「さあ時間いっぱい!トーナメント第2戦、開戦ーー!!」

 よし!開幕郭嘉の前に司馬師が居る!踏んでくれればデカい!踏め、踏め…

 踏んだぁぁぁああ!!

 キタ、かなりデカい!ダブ突だ、開幕勝っとかないと!ちょっとでも城ダメを…


「あーっと!ここで司馬師二重迎撃!郭嘉の乱戦が浅かったか!」


 …え。


 ヤバイ、取り戻さなきゃ。

「カンナの忍斬撃で山県と郭嘉がスタン!開幕でこれは痛い!!」

 …ウソ、嘘だ。ダメだダメだ、開幕勝たなきゃいけないのに!!

「なんとか平と引き換えに司馬師撃破!しかし司馬昭の城門が入りそうだ!」

 ダメなんだよ、何でだよ!勝たなきゃいけなかったんだ、何で刺さったんだよぉ!!開幕勝たなきゃいけないのに、絶対ダメなのに!!

「復活した山県で司馬昭撤退!しかし後半型の琥軍デッキが城ゲージ4割リード!素晴らしい開幕攻勢!」


 …もうダメだ、勝たなきゃいけないのに。

「小西の素晴らしい弓サーチ!機動力の高い相手に回復を許さない!」

 …攻めなきゃ、ちょっとでも差を縮めないと。リード取らないと。

「郭嘉の号令から戦場端マウント、しかしカンナの乱戦斬撃が機能する!」

 …どうしよう、こんなにまだリードされてる…。

「あーっと、ここでアクシデント発生!!『天上天下』君主、大丈夫か?!」

 …相手も全然倒せてないのに、もう兵力もないのに。どうしよう、カウンターされちゃうよ。負けたらどうしよう、刺さっちゃいけなかったのに。どうしよう、どうし――


――あれ、なんだ?

「コントロール不能の司馬昭、戦場中央で撤退!天上天下君主の足並みが崩れる、たまらずカウンターを諦める!」

 兵力バッチリだった相手が帰ってく。それと同時に、視界の端っこで対戦相手がガタッと椅子を引いたのが見えた。

 何か、探してる…?本当は対戦相手の方見ちゃいけないけど、少しだけ…


 あ、カードが飛んだんだ。

 ローダーに入ったカードが、俺と対戦相手の間の辺りでひっくり返ってる。対戦相手がそれを見つけて、駆け寄って、手を伸ばす――


 ――震えてる。


 視線を戻して目の前を見た。

 誰も居ない戦場。
 50カウント。士気7とちょっと。


 そっか、怖いんだ。

 格上でも、やっぱり怖いんだ。俺とおんなじで怖いんだ。
 たかがゲームなのに、負けるのが怖いんだ。自分の実力が出せなくなるのが怖いんだ、少しでも長く頑張ってみたいんだ。

 みんな、ここに出てるみんな、おんなじだ。強くても弱くても、若くても年上でも。


 …もうちょっと、頑張ってみよう。


「仕切り直して再開、先に仕掛けたのはてんま君主!」

 司馬昭は撤退中、争覇込みで取り返すなら今。

「ここで郭嘉ではなく山県を選択!ここは勝負に出たァ!!」

 司馬昭のカウントは17、もうここでリードを取り返す!

「密集隊形から離れていた千代女が忍び突撃で司馬師に突撃成功!相手の体形が崩れた!」

 カンナの斬撃を意識、弓さえ止めれば攻城ゲージは減らせない!

「攻城カットインを利用してずらし攻城!城門3連打で逆転、これは分からなくなった!」

 最善を尽くすんだ、突撃もちょっとでも多く、帰城をちょっとでも短く!

「天上天下君主、半壊状態だが司馬昭でライン上げ!千代女が時間を稼ぐ!」

 全部出すんだ、俺がやってきたこと!

「司馬師重ね掛け!巨大化エレンが3部隊に突撃!どうなるぅ?!」

 やるんだ、最後まで!きっと勝てる!やればできる!!
 そうすれば、きっと、俺は――


「試合終了ォーー!勝ったのは、天上天下君主!!2回戦進出おめでとうございまぁーす!」


 …あ、
 負けちゃった。

 疲れてフラフラになった身体で振り向くと、さっきまで少しだったギャラリーがずいぶん増えてて拍手してくれてる。俺のちょうど正面にはジュンと、師匠と…

 …あ、ヒカリンさんもいる。

「お疲れ様テンマくん、よく頑張ったね!」
「テンマ惜しかったぁ~!山県ワンパン差ぐらいだったじゃん!もうチョイだったのに、クヤシィ~!!」
「いや、メッチャ疲れたわ、もうヘロヘロだよ…」
「この後、別の知り合いの試合応援しに行くんだけど、皆は観に行く?」
「あ、僕行きます!ちょっとでもやることやっとかないと!」
「オレは遠慮します、疲れちゃって…」
「分かった、とにかくお疲れ様!またあとでね!」
「僕がテンマの仇とるぞ~!」

 二人は反対側の応援席に歩いて行く、残ったのは俺と、ヒカリンさんだけ。

 …あーあ、こんな予定じゃなかったんだけどな。カッコ悪いし恥ずかしいし、こんなんでどうやって――


――?LINE?

〔母〕
 学校と塾に問い合わせました、今日はどちらにも行ってないようですね。
 塾の方では、夏期講習に登録してないと話がありました。
 部活の顧問の先生から駅前で遊び歩いているという目撃があるとも聞いています。
 すぐ帰ってきなさい。
 
 
 メッセージを読むうち、身体が疲労と恐怖で潰れそうになってく。

 ああ、終わりなのか。
 ダサい終わり方になっちゃったな、結構頑張ったんだけど、やっぱり足りなかったな、色々と。
 帰ったらきっと、ゲーセンのことも、3万のことも、ずっと遊んでたことも言うんだろうな。
 せっかく頑張ってここまできたけど。

 スマホから目線を上げると、ヒカリンさんはまだ隣にいた。師匠とジュンはアッチに行っちゃったのに、ずっと俺の隣で、さっきと同じ姿勢で、試合のモニターを眺めてる。
 俺の、隣りで。


 せっかく、ここまで来たんだ。

 既読を付けたスマホをポケットに突っ込んで、一つ深呼吸する。

「あ、あのぅ」
「??あ、はい♪」
「はじめまして、お、俺、テンマっていいます」
「はじめまして、ヒカリンですぅ。さっき凄かったですね、応援してましたよ~」
「あ、ありがとうっす!負けちゃったけど…」
「途中の真紅の采配アツかったですぅ~!山県サマの熱き魂籠ってましたぁ!」
「マジっすか?!もうあんなのガムシャラっすよ!やるしかねぇ!って感じで!そうだ…、この後、あの…、一緒に、大会の試合観ませんか!一緒に応援したり!」
「…いいですよぉ~。山県サマ推し同士、応援しましょ♪」


 俺の最後の選択は、とんでもなくバカで間違ったモンだった。
 しかも、その選択で得たのはたったの3時間。
 でもそれは、すごくすごく楽しくて幸せな3時間だった。

【プレイ回数残:0回】
作成日時:2024/08/30 09:17
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