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徳川家康伝 一章所感

by
桜井華奈
桜井華奈
家康の呼び名が竹千代だったり元信だったりで分かりにくいので、本稿では家康とまとめて書きます。

感想まとめ(https://taisengumi.jp/posts/173935


───以下、感想


【物語について】
信長と家康が若い頃に知り合っていたって件は結構有名だと思っていて、ここを擦るのかなって思ったら割と一瞬で過ぎていったのは結構好みです。
基本的に戦のタイミングでチャプターが切り替わるので特に何でもない回は駆け足気味でした。


徳川家康伝である以上、桶狭間の戦いもあくまで”味方への補給支援”としてのみ描き切るのも好みな塩梅です。
桶狭間の戦いはネームバリュー的にも触れたくなる気がしますが、”義元が討ち取られた”くらいで抑えている。
これは織田信長伝を先にプレイしていると再度読み直したくなるくらいの味付けで上手いなぁと思いました。


清須同盟での家康への問いかけで、義元と信長の視線が少し違っているところが描写されていたのが好みでした。
義元は「己の力はどこからくるのか?」、
信長は「望むものはどこにあるのか?」。
義元はあくまでも自身の目的である上洛を行う為の力についてで、信長は更にその先の覇道について見ているような気がします。
どちらが正解かという話ではなく、ここに彼らのキャラクターが現れていて良かったです。


また、本群雄伝のテーマは命の重みとかなのかな~と少し感じた。
武士にとって土地とは命より重い存在だと思うんですけど、全体的に土地よりも命や家を残すことの方が大事だって説いてるような気がした。

義元が斃れるまでは土地を回復するために戦っていて、その過程で三河武士衆との主従を越えた絆を紡ぐ~みたいなのが大まかな筋ですが、その過程で一向一揆があったりで苦悩するといったイベントがある。
師匠/軍師枠が早々に居なくなるので(酒井忠次が後釜といえばそうだけど)全体的に三河武士衆が家康を支えていくって話に収まる。家康側も同じく三河武士衆へ向けた仁徳が篤いので、(民への仁徳みたいな話はあまり出てこなかったけど)一昔前の劉備像のように感じた。
個人的に家康のイメージは天下餅であったり、肖像画の狸っぽさであったりが強いのでここら辺は目新しく感じ面白かった。


【キャラクターについて】
全体を通して敵方、及び第三勢力に魅力的な人物が多くて大変好みな仕上がりでした。


特に雪斎と義元のキャラ付けが好みです。
というのも、義元って暗愚として描かれがちじゃないですか(この認識はもう古いかもしれないけど)。
そんな中覇者たるキャラクターとして立っていて、若き家康の精神的支柱の一つとなっているのはとても好みです。
「知恵勇気慈悲、三つ揃って初めて将と成りえる」ってセリフはかっこいいし好きです。
「己の力はどこからくるのか見極めよ」もかっこいい。名言製造機か?


また、家康を支えるのは基本的に三河武士衆なんですけど、朝比奈泰朝も兄貴分の様なポジションで配置されているのは面白いですね。
前提として彼は今川側ですが、今川側だからこその種明かし要員と精神安定役を兼ねているのは上手い。
どうしても三河武士だけだと確定的な種明かしは作れないので。

ただ、北条氏政も割と唐突に思惑の白状をしてきて、それは要らなくない?とは思った。


逆に苦手だったのが三話の本多忠勝。「ER忠勝の風貌で初陣!?」ってやつです。
これはまあシナリオ上の被害者というような感じなのであまり強く言いたくないのですが、私はメタネタが苦手なので。
若い猪武者であれば別に会話上はER忠勝である必要は無いのだからモブ差分でも良いじゃんの気持ちがありました。
また、この文章が残された以上、若年の忠勝が実装されない可能性が高いな~ってとこまで考えちゃったのでちょっとここはネガティブです。


【雑記】
雪斎が家康に対し、「吾妻鏡を引用して、自身と源頼朝を重ねているのか?」って件好き。
毛利伝でも書いたんですけど、英傑大戦のキャラクターを全面に活かすテキストなので好み。
戦国とか三国志だけが題材だとここの旨味が薄くなっちゃうので。


お市から信長へ「中身が小豆の、両端をきつく縛った包み」が送られてきた件、とりあえず何も考えないで読み解くと挟撃の示唆だと思うんですけど、じゃあなんで小豆なのかについて軽く考察。


>また「あず」「あづ」は崩れやすい所を指し、煮崩れしやすいことから「あずき」となった説などがあります。
https://www.imuraya.co.jp/azuki/features/origin/


舞台についてメモし忘れたので記憶頼りですが、両側を山に覆われた地形みたいな会話があった気もするのでここら辺から小豆の選出なのかな~みたいに思った。
wikiにも小豆を送った逸話が記載されていましたが、英傑大戦のお市の暗号好きを上手いこと拾ったエピソードなのでちょっと好きです。


【最後に】
これは群雄伝に限りませんが、「お話というのは掛け算である。」と改めて考えさせられた群雄伝でした。
いや、伏線の散りばめ方~とかキャラクターの情緒~みたいな繊細な話ではなく、オムニバス形式で物語が書かれると楽しみ方は乗算されていくなというニュアンスです。

例えば織田信長伝として物語を書けば、当然信長の視点が多用されます。
勿論、信長伝の中でも ~一方今川陣営~ みたいな書き方もできますが、そもそもで今川伝や徳川伝と置くと物語としての厚みが違うわけです。
桶狭間の戦いを例に挙げても、信長は雨天の中奇襲、義元は突然の奇襲に混乱、一方家康は戦いの決着には直接的に関係は無い訳です。この「関係無い」という状態は一見無のようで、とても偉大な緊張感を感じられたな~という。

視点の切り替わりを都度行わない代わりに個別の群雄伝として、あくまで一つのお話として作り上げてあるので良い。
そして脳内で各群雄伝を繋げ合わせると、途端に面白さが乗算されていくといった旨。
また織田信長伝やろうかなと思わせるような触れ方で好感触でした。


一方で、一章完結でない群雄伝は基本的に盛り上がり切らずに終わるので、どうしても尻すぼみ感があった。

これは個人の感覚だと思うけど、桶狭間以降はちょっと退屈気味な話だった。
これが徳川家康のよく言われる「忍耐」の部分であるならまあそうかってなるんですけど、一章の終わりまでも忍耐だったのでネガティブ。
理由はたぶん話の流れで「分かりやすい勝利」が無いところが原因なのかなって思った。一向一揆もあくまで乱を鎮めたに過ぎないし。
なので、少年誌的な盛り上がりを期待するとちょっと肩透かしはある。

ただ、金ヶ崎の撤退戦に至るまでに小話が多く挿入されているので、毎度ながらコラム欄としての楽しみはある。
あくまでも盛り上がり方が地味というだけ。


総評すると、好みは分かれるかもしれないけど面白い部分は当然ある。
また、徳川家康伝だけでなく、他の群雄伝も触るとより面白くなるって感じがしました。
二章以降に期待です。
作成日時:2024/02/26 20:36
カテゴリ
雑談・雑感
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