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【連続大戦小説】俺と大戦と夏休み 第3話:強いって何なんだ?

by
渡辺台王
渡辺台王
 俺のホームゲーセンのゴーワンは、入り口手前にプリクラとかクレーンとかがあって、真ん中の通路を抜けるとメダルコーナーで、そのまた奥に英傑大戦とか大型ゲームのコーナーがある。
 で、入店の時絶対に気をつけなきゃならないことがある。
 プリクラゾーン付近の人けが少ないのを確認するのと、真ん中の通路は素早く通り抜けることだ。
 それを怠ると――

「アレェ?ww上原クンじゃんwwww」

 …こうなる。

「…オ、オウ、佐々木。今日、部活じゃ…ねぇの?」
「明日メンバー遠征だから休みなんだよねーww幽霊部員だと知らねぇよなwww」
「ジュンヤぁ、コイツ誰ぇ?」
「コイツ?5組の上原ww赤点補習の後部活サボってゲーセン通ってんのwwwマジウケるwww」

 ちぇっ。
 中学の時はコイツより俺のが強かったのに、俺より顔が良いしコーチに気に入られてるからって完全に調子乗ってやがる。

「あれ?上原じゃないか!」
「…あ、春日先輩も一緒…っすか」
「久しぶりだなぁ!最近部活全然来ないじゃないか、どうした?皆も心配してるんだぞ?」
「いや、別に、スンマセン…」
「そうだ、ちょうどよかった!明日の遠征があるから、メンバーとその友達でこれから遊ぼうって言ってんだよ!上原君も来い!」
「いや…俺はいいっす」
「なんだよ、ノリ悪いな。まあとにかく、部活必ず来いよ!このままだと佐々木とだいぶ差ァついちまってるぞ!」
「大丈夫っすよセンパイ、上原の分まで明日オレ頑張るんでwww上原、ゲームの方は任せたわwww」

 佐々木が彼女とプリコーナーに行くと先輩の隙を見て通路を奥まで突っ切る。
 
 …まぁ、もとはと言えば部活サボって、親に塾行ってるってウソついて遊んでる俺が悪いんだけどさ。
 何なんだろうな、この惨めな感じ。

 でもそんな気分も、メダルコーナー超えた辺りで薄れてきた。っていうより、目の前の状況見たら、そんなモヤモヤは完全に吹っ飛んじまった。

 な、な……

 なんじゃ、このプレイヤーの数?!
 ゴーワンの大戦プレイヤーなんて多くて5・6人だろ!筐体が全部埋まって、その周りにも人がすし詰めだ!

「あっ、来た来た!テンマ!」
「ジュン、なんだよこの騒ぎ!この人たちどっから来たんだ?」
「うーん、話がややこしいんだけど…」
「お!テンマくん来たね!ビックリしただろ!」
「師匠、この人たち、みんな大戦プレイヤーですか?」
「そう!この人たちはオフでここまで遊びに来てくれたんだ、きっかけはあの人だよ」

 SOLDUM師匠が指さした先には、アロハシャツ着た小太りのおっさんがいた。室内なのにグラサンしてて、なんか中南米で怪しい取引でもしてそうな見た目だ。

「英傑の配信で『剣技チャンネル』って知ってるかな?彼がその『剣技』で、ボクの知り合いなんだ」
「あ、剣技チャンネル知ってます!なんか地方ゲーセン回って配信とかする旅番組みたいな感じのっすよね」
「そうそれ!剣技にはそのうち遊びに来てくれって言ってて、今日はこの店舗で配信に来たんだけど、彼は顔が広いからこんなことになっちゃってね」
「じゃ、この人たちみんな剣技さんの知り合いっすか…」
「人数もすごいけど、レベルもだよ!テンマくん、あの右端の筐体でプレイしてる人見てごらん」
「え、『だびで』?!だびでって、ホンモノのだびでさんですか?全国5位とかの?!」
「そうだよ!ジュン君と一緒に後ろで見ようか、勉強になるはずだから」
「テンマ、今25連勝中ってあったよ!あんなの見たこと無いよ~!」

 バケモン、バケモンだ!きっととんでもない最強デッキと最高の戦器なんだ!一体どんな…

 …なんだアレ?

「あ、あの、師匠?あのデッキ、お遊びデッキっすか?」
「いや、真面目だよ!彼曰く一番環境にあってるらしい」

 孫策伯符・池田せん・妻木煕子・華陽太后・呂嬰・初・薄姫が最強デッキぃ~?

「…全っ然強く見えないっす。というか、アレどうやって攻めるんすか?」
「まあ見れば分るよ!もう始まるから、手元とかも良く見ておきな」

 確かに凄い。
 7枚もカードがあるのに全部が無駄なく意味がある動きしてる。部隊は全然撤退しないし、城内槍撃も孫策伯符の連続突撃も完璧。

「どう?すごい精度だよね!」
「はい、俺なんか4枚なのにあんなにゴチャゴチャするのに凄いっす…」
「…もう少し見てみようか」

弓サーチも絶対ミスしないし、呂布の天下無双が切れる瞬間を見切って射撃入れるのも完璧だ。確かに凄い精度、でも…

「…なんか、さっきから相手の負け方おんなじだよね~」
「ジュンも?!俺も思った。師匠、なんでみんな池田せんの前に3枚とか重ねちゃうんすか、貫通撃たれたら終わりじゃん」
「…実はね、池田せんの計略を打つ前に勝負が決まってるんだよ」
「どういうことっすか?」
「相手もランカーだから計略の性能は十分理解してる。でも、部隊が方向転換する時の走り出しの遅さだったり、騎馬のオーラ出しスペースをけん制する動きだったりを積み重ねて、自分が最も強い状況にちょっとずつ相手を付き合わせてるんだ。もちろんデッキや操作の精度も大事だけど、彼の強さはそこにある。そして勝負というのは――」

「オォ?SOLDUM、その子たち誰だーィ?」

 三人で話し込んでたところに、人ごみをかき分けて剣技さんが現れた。目の前で見るとますます怪しいな、この人。

「お、剣技!紹介するよ、テンマくんとジュンくんだ!このゴーワンのホープだからな、大事にしろよ!」
「貴重な若手か、宜しくーゥ!ゴメンねぇ、こんな騒いじゃってーェ!」
「いや、全然っす!こんなすごい人のプレイ見らんないんで、メッチャありがたいっす!」
「SOLDUMに大事にしろって脅されちゃったからね、二人ともデッキ何使ってんのーォ?」
「俺は山県と、エレンと、郭嘉と曹仁っす!」
「ボ、僕はっ、ルシファー朱儁と、夏姫に、邪見極大に、虎熊童子ですッ!」
「ガッツリ系デッキじゃん、イイネーェ…、おい、だびでっちーィ!次さぁ、騎馬4と5枚ルシファーとかやりたくなーィ?」
「ええ、次ぃ?剣技はんいきなりブッこまんといて下さいよぉ!」
「いいじゃん、若手育成しろよ!プレイヤー人口減ったらだびでっちのせいだぞーォ!」
「若手かぁ、アーケードにおいてそのワード強いわぁ、初バージョンの巴より強ぃ…」
「ホラ、二人ともデッキ出しな!だびでっちヒヨってるから、今のうちにカード持ってって登録しチャイナー!」

 その場のノリで背中おされて、ホントにカード登録しちまった!マジか、スーパーランカーが、俺のヘッポコデッキを!!

「騎馬単久しぶりやけん、上手くいかんかったらゴメンネー。がんばるわー」
「はい!お願いします!」

 ウオォ、ウオォォォォ!!!
 こ、今度は分かる!いつも使ってるデッキだから、この人のヤバさがよくわかる!!
 攻城したカードもギリギリで生かすし、剣豪や鉄砲がチャージした瞬間も見逃さないし、おまけに巨大化エレンで最短端攻城なんかしてるし!

「す、すごいよテンマ。この人多分、秒単位で相手が復活する時間とか計略時間とか理解してるよ!今朱儁が最後無理やり突撃したの、先陣切れた分の効果時間減が分かってた動きだよ!」
「だびでっちは理論オタクだからねーェ、剣豪と鉄砲が攻城ラインでアクションキャンセルになる座標とか知ってんだよ?オタクってマジキモイよねーェ!」
「そこ!剣技はん!今絶対オレの悪口若手に言うてたやろ!」
「だびでっちうるさい!ちゃんと前見て!二人ともさ、この後5時からみんなで飲みに居酒屋行くんだけど来るーゥ?」
「え、い、居酒屋?!」
「未成年だからソフドリでね、ちょっとご飯食べて喋ってさ、途中帰宅も全然オッケーィ!」


 居酒屋はもちろん、大勢の大人と飲み会なんて初めてだったから最初は緊張したけど、こんな楽しいの人生で初めてだった。
 下ネタとかオタトークとか子育てが大変とか、普段聞かない話たくさん聞いたけど、どんな話だったか笑い過ぎてほとんど覚えてない。

 ちゃんと覚えてんのは、茶わん蒸しのギンナンが嫌いな俺に剣技さんが無理やり焼きギンナン喰わせてきて、スゲェうまくてもう一皿注文してもらったのと、その後の師匠との会話だ。


「テンマくんとジュンくんさ、今度ゴーワンでやる英傑大会出てみなよ」
「あ、あのトーナメントっすか?考えてないっすけど、師匠は出ないんすか?」
「開始が午前中だから間に合わなくてね。でもせっかくだから二人も出てみるといいよ」
「う~ん、でも僕まだ弱いしなぁ~」
「君は達人になってから大会になるつもりかい?それじゃいつまで経っても――」
「ア゛ア゛ア゛ア゛、ハイハーーーイ!!その元ネタ知っとるでェェ!!ぴんぷぉおおおん!!!!ベルセルクのォ~、親父ッ!!!」
「アルハラ中年オタクうるせぇゾーォ!ゴメンねぇ若者ーォ!」
「剣技サンキュー!……まあそういうわけだ、いい機会だと思うよ!腕が試せるし、きっと強くなれる」
「そ、そうっすかね……」
「やるなら途中から応援に行くよ!ヒカリンさんも見に来るって言ってたね」
「え、ヒ……、ヒカ?」
「うん、ヒカリンさん。常連さんでね、テンマくんたちも見かけたことあると思うよ」

 ひ、ヒカリンさん!!あの方は、ヒカリンさんなのか!!!
 いや、それより、ヒカリンさんの前でプレイできる!応援していただける!!しかも、もし優勝なんかしちゃったら!ひ、ヒカリンさんとお話がぁぁぁ!!!!



 次の日、大会にエントリーした俺はジュンと対策を始めた。
 デッキ見直して、上位プレイヤーの動画見て、配信プレイヤーに質問してみて、そしてとにかく全国対戦でやれることを色々試した。
 まだまだ先だと思ってた一か月はあっという間で、


 ついに試合当日、8月25日の朝が来た。

【プレイ回数残:1回】
作成日時:2024/08/29 09:14
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