「上原さぁ、高2の一学期で赤点二つはマズいだろ」
「…ハイ、すんません」
「オープンキャンパスも一つも行ってない、志望校全然絞れてない、お前進路どうすんだ?卓球部も2年になってから全然来てないってコーチから連絡来てるぞ」
「…はぁ、いや…、ハイ」
「とにかく!赤点補習はゼッタイ休むな!あと来学期までになんか興味湧く分野決めとけ。スポーツでも政治でも読書でも、好きなモンなんかあるだろ」
「…ハァ、すんません」
うーん、好きなモンがねぇから困ってんだよなぁ。
俺の、上原天馬の人生でマジに夢中になったものなんて、幼稚園の頃アホみたいにやってた粘土コネコネと最近のKPOPアイドルぐらいだ。
卓球はまあ好きだったけど、どうせプロなんかなれねぇし、意味ねぇことに時間かけるのもバカらしくて興味なくなった。
「お、テンマ!これから二者面談?」
「今終わった~。ウチの担任話長ぇんだよ」
「僕も終わったからさ、今日も行こうよ!」
「えー今日ムリ。塾行って夏期講習申し込めって親から3万貰ってんだよ」
「いーじゃん、ね?30分だけ!1クレ奢るから!」
若林淳は小学校からの付き合いだ。
ジュンは俺より頭いいし家も金持ちで、昔から付き合いはあったけど、最近よく一緒に遊びに行くのが――
「…じゃ、30分だけな」
「オッケ!じゃゴーワン行こう!」
――ゲーセンだ。
ジュンが言うには、俺って結構ゲームセンスいいらしい。
ガンゲーも命中率平均以上だったし、格ゲーもCPUなら目押しで何とかなるし、反応速度は卓球で鍛えてるから自信ある。
でも、どれもハマるほど面白いって訳でもない。結局ちょっとゲームして、そのあと壁際にある机とイスでジュンとダベるのが最近の日課になってた。
「今日はクイズとかパズル系やろうよ」
「えー、俺対人系のゲームじゃねぇと張り合いねぇわ」
「ジョジョとかも格闘だけどね……んじゃ思い切ってガンダムやってみない?!」
「いや、俺ガンダムとか興味――」
「あ、あのぉ~…」
いきなり俺の隣で女の人の声がした、ビックリして横向くと――
「す、すみません…」
「へ、へぇ?」
カ、か…
か、可愛い!
えええ、めっちゃ可愛いじゃんこの人!
だ、誰? ってか声かけてきた?俺に?なに、何用?もしや、これが世に聞く、ぎゃ、逆ナン?
「はぇ?あ、あのっ、」
「あ、あの、そこ…座りたい、んですケド」
「え…?あ、あぁ!?ス、スンマセンッ!」
周り見たら他のイスは埋まってる。あわててカバンどけたら、その人は俺が今までずっと机とイスだと思ってたゲームに座ってプレイを始めた。
そしたら、おんなじタイミングで隣の台が開いて――
――俺は思わず、そのゲームに100円玉を放り込んでた。
「お、オイ、テンマ!何やってんの!」
「見りゃ分かんだろ、今からこのゲームやるわ」
「このゲーム、プレイするのにICカード要るんだよ!あそこの自販機で買ってこなきゃ!ちょっと買ってくるから座って待ってて!」
ハァ~、見れば見るほどめっちゃタイプ。
いくつぐらいだろ、学生?香水付けてるし社会人かな?
「さ!最初はチュートリアル、まずスターター選んで!」
「?」
「赤、青、緑、黒!好きな色選んで!」
「あ?ア~、赤ぁ~」
この人も赤いカード使ってるみたいだから赤にしよっと♪
服はジーンズ生地コーデで大人しめなのに、髪色結構明るいな。ギャップあるのもそそるわぁ。
「次、君主名!名前入れるの!」
「え、て、てんまぁ~」
「んもぉ、何ボーッとしてんだよぉ~!」
この人の名前なんだろ、『星☆リン』?
何て読むんだろ、なんかのキャラネタ?
「いい?まず三兵種の相関――」
「…あぁ!」
「なに、どしたの?」
ヤバイ、帰っちまう!ゲーム終わっちゃったのか?どうしよう、なんか無いか!喋るきっかけとか、一緒に話せそうなこととか!
…そうだ、カード!赤いカード、俺と同じ!
何使ってんだろ…クッソ、遠くてよく見えねぇ。あのカードの名前何て読むんだ、ヤマ…ケン?
「ねぇテンマ、やっぱこのゲームムズいし、他のが良いんじゃない?カード揃えるのも大変だよ?」
「いや、決めたわ。俺この…英傑、大戦?マジ極めるわ。とりあえずジュンさ、ヤマケンとかいうカード持ってね?なんか赤いやつでさ、目がギラギラしてて、カーッ!ってなってるやつ!」
「ああ、山県かな。あれヤマガタって読むんだよ」
「頼む!アレくれ!一生のお願い!貸すだけでもいいから!」
「えぇ?マジか…、あれLEだよ?最高レアだよ?縁ポイント800も使うのに…」
「俺このゲーム極めるわ、ジュン横来て教えて。今日中に操作マスターしねぇと」
「僕このあとボンバーガールやりたいのに…」
「いいから!」
これが俺と英傑大戦の出会い、俺の高2の夏休みは、こんな感じで開幕した。
【プレイ回数残:270回】