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【連続大戦小説】俺と大戦と夏休み 第2話:一生ついていきます、師匠!

by
渡辺台王
渡辺台王
「皆さんに必要なのは単語力。基礎が足りない状態で文法勉強しても全く無意味であります。先ずは暗記!今年の夏は一つでも単語量を――」

 うぅ、ア、暗記……。

「計算なんてすぐには早くならないのよ!二次関数でも確率でもけっこう、『これなら早く正確に解ける』という得意分野、勝ちパターンを作りなさい!」

 クッ、か、勝ちパターン……。


 あぁぁ、ダメだーー!!!

 あれから毎日、タブレットに全カードデータぶち込んで補習中に暗記してんのに、どうしてもイラストと計略が覚えらんねぇ!
 挑発系がヤバいのは頭お花畑ジジイにボコボコにされて覚えたけど、毎試合wikiで計略検索してたんじゃいつまで経っても勝てっこねぇ。


 それに勝ちパターンどころか、デッキだってサッパリだ。

 今のデッキは山県昌景・鄧艾・甘利虎奏・椋梨藤太の4枚騎馬単だ。騎馬って足速いし攻撃力高いし、『使いこなせば強力!』みたいなテクニカルデッキってカッコイイじゃん?

 でも、現実に全国対戦やるとボコボコにされるだけでなんも面白くねぇ。
 ホントは山県の計略使いたいけど、使うと全員どっか行っていつの間にか全滅してるし、しょうがないからジュンから鄧艾借りて迎撃無効号令ばっか使ってる。
 もう30戦も全国対戦やってんのに4回しか勝ってないし、その4回も何で勝ったのか分かんねぇ。こんなんじゃカッコ悪くて、いつまで経っても星☆リンさんと山県トーク出来ねぇよ……。

「エレンさえ手に入ればなー。エレンで槍消して山県重ねたらマジ最強コンボだぜ?」
「エレンはキャンペーン報酬だから僕も持ってないしなぁ、ネットでも値段高いよね」
「回復と速度アップと槍消しとか絶対強ぇだろ、アイツいれば100連勝できる自信あるわ」
「出回ってないのはどうしようもないよ、あとはトレードするしか」
「……トレード?」
「そ、ゴーワンに来てるプレイヤーに声掛けするの、何かと交換してくださいって」
「そ、そ……」

 それだぁぁああ!!
 
 トレードを口実に話しかければ全く怪しまれず会話できる!
 そこに例外はない。例えそれが、まだ喋ったことがない星☆リン様でも!
 戦いのお供に午後の紅茶ストレート500mlを欠かさない星☆リン様でもッ!
 プレイ時間は必ず平日の12:30から14:30と決まってらっしゃる星☆リン様でもッッ!!!

 こんな大事なこと忘れてたなんて!大戦なんぞあくまで二の次!あの人と仲良くなれるなら500連敗しようが構わねぇ!
 現在の時刻11:45分、学校からゴーワンまでチャリで40分弱。昼飯抜いて突っ走るしかない、Myビクトリーロードを!

 
「アチ~、やっと着いた~。……あ、テンマ。ちょうどいいじゃん、あのプレイヤーさん常連だよ、キャンペーン回してるかもしれないよ。声かけてみれば?」

 いたぁ!いらっしゃった星☆リン様!!計略のカットインのたびに前髪をちょっとかき上げるクセが相変わらず麗しいッ!

「あ、へー……。あ、常連なんだぁあの人。あんまり周りのプレイヤーとかぁ?気にしてなかったけど。じゃ、適当に、話しかけてみっかなー」

 ちょうど試合が終わったタイミングではないか、これぞ好機!さあ行け天馬――

「……あー負けちゃいましたぁ。最近勘助増えてきちゃって山県サマ厳しいですぅ……」
「勘助は範囲も大きいからね!デッキを変えるというより、勘助自体の兵力を減らす動きで牽制していくのがいいと思うよ!」

 ――え、

 ダレ?その隣の男!なんで普通に友達っぽく喋ってんの?!
 眼鏡の中肉で長袖タータンチェックとかいう、ちょっとテンプレ過ぎるインドアファッション男が、あんなに普通に星☆リン様と喋ってるなんて!おかしい、世の中間違ってるッ!

「はい♪じゃ、バイト早いんで今日はこの辺で失礼しますぅ」
「うん!お疲れさま!」

 え、あ、帰っちゃう。行ってしまわれる、また喋れなかった……。


「あー行っちゃったね。テンマ、台空いてるけどプレイする?」

 ……なんでいつも間が悪いんだ俺、あの人とは永遠に喋れない星の下に生まれてるの?
 まだ温もりが残ってるイスに座る。代り映えしないデッキ並べて全国選ぶと――

「……?!ゲェェェ!!またこのデッキ!」
「いきなりこれかぁ、マッチング運ないねぇテンマ」

 柴田勝家と前田利家と河上彦斎が無限に端攻城してきて、やっと倒したら楢崎龍が超絶強化してくるデッキだ!もう3回当たって3戦ともボロ負けしてる。天よ、なぜ俺にこんなに試練を!

「これどうしようもないよね~、3枚とも硬いからずっと守ってるだけになるし」
「このデッキ一生無理じゃね?俺いつになったら勝てるように――」


「あ!それね、大丈夫。絶対勝てるから!」

 いきなりデカい声が後ろから飛んできた。
 ビックリして振り向くと、さっきのインドア男がこっち見ながら喋りかけてきてる。

「まず流派は城塞!部隊でもいいけど騎馬単なら定石かな」
(……え?なあジュン、この人、誰?知り合い?メッチャ喋ってくんだけど)
(知らないけど、たぶん、この人SOLDUMって人だと思う、常連だよ。ホラ、よく店内頂上に動画載ってる人。)

 マジ?全国ランキング3桁とかの人じゃん、なんで俺に教えてくれんの?

「あ、天羽々斬あるなら使おう!伏兵二枚は両端設置!」
「……え、でも、真ん中にいた方が当たる確率高いんじゃ」
「普通はね。でも相手は左右に分散する方がメリット大きいデッキだから、端にいた方が確率高いよ。そうだ、テンマくん!君は今同時に武将何枚扱えるかい?」
「え……、たぶん、2,3枚とか」
「分かった!じゃあ2つ守ること。一つは、指示した2枚の武将の操作に集中する、もう一つは、山県は何が何でも柴田勝家と乱戦し続ける!これを守ってくれれば必ず勝てるよ!」
「は、はぁ……」

 星☆リンさんと喋るつもりでココ来たのに、なんか変な奴に絡まれちゃったな。

「あ、スゴい!ホントに開幕2枚伏兵踏んできた!」
「楢崎が撤退したんだから椋梨はすぐ城門!人数差生かして!」
「えぇ、でも相手ドンドン前来てるし……、うわ、黒糸威胴打ってきた!」
「大丈夫、こっちも天羽々斬で応戦!無理に突撃しないで、迎撃と斬撃だけ受けないよう乱戦!」

 スゲェ、この前はこのまま落城してたのに。復活減少しか使ったことなかったけど、強化戦器ってこう使うのか……。

「さぁ、端攻城きたぞ!そしたら全武将を利家側から出して、鄧艾の4枚掛けで全員突っ込め!」
「でも、利家の車輪使われたら突撃出来ないっすよ!」
「それでいい!車輪発動を確認したら、甘利は利家の前でカード放置!」
「放置ィ?!置いとくって、動かさないんすか?」
「乱戦で効果時間稼げばいい!それより、号令切れないうちに他の3枚で反対側の柴田と河上を倒す、時間ないぞ!」

 カード置きっぱとか、そんなのアリかよ!

「いいじゃんテンマ!勝ってるよ!」
「流派弐打つのが遅い!カードは最短距離で城に戻す!」

 オイオイ、今までやってた試合と全然違うぞ……。

「テンマ、今度は暗殺剣で攻めてきたよ!」
「山県が柴田マークしてたのが生きるぞ、鄧艾1枚掛けで柴田に突撃!そのまま河上に乱戦!」

 ヤバイ、脳みそパンクしそう。今まで知らなかったことがどんどん頭に入ってくる!

「楢崎の超絶強化だよ!」
「士気温存!コストの低い武将は諦める!山県と鄧艾だけ絶対生かす!」

 山県と、鄧艾、だなッ!あぁ、もう完全にパニック!

「兵力回復したらすぐ城から出す!覇気ゲージ貯めを常に意識!鄧艾は隙あるんだから攻城!」

 ヒィィ、やること多すぎ!次は?次は何だ!

「全員出城したら鄧艾4枚掛け!椋梨は攻城行く!争覇喰らう前に流派壱!」
「鄧艾がッ、号令!む、椋梨は、攻城!流派……、発動ォ!ハイ、次は?!」
「……」
「え、次はッ?!」

 なんだよ、いきなり黙って!何で?!

「……テンマくん、おめでとう」

 え、オメデトウ?


 ……あ、

 時間切れ?

「スゴイよテンマ!ホントに勝っちゃったよぉ!!」
「お、おぅ……」

 勝った。
 す、スゲェ。マジで勝っちまった。

 しかも、ただ勝ったわけじゃねぇ。
 今の試合、全部の動きにちゃんと理屈が通ってた。どういう目的で武将動かして、計略打って、何で勝てたのかがスッキリ全部わかる。ウソみたいだ、後ろで喋ってただけなのに、魔法使いかよこの人!

「鄧艾1枚掛けが刺さった時はヒヤッとしたけど、それ以外は完璧だったよ!忙しい指示もこなしてたしね。そんな頑張った君には賞品としてコレをあげよう、もし持ってなかったら使うといいよ!」
「……あ、あ~!テンマ!コレ、エレンだよ!」
「え、も、貰っていいんすか?!」
「一応まだストックあるしね!それに最近頑張ってるなと思って見てたから」

 か、神だ!試練の数々はこの方と巡り合うためだったか!

「し、師匠!」
「……へ?」
「ぜひ師匠と呼ばせてください、弟子にしてください!」
「ぼ、僕も、ぜひ弟子に!」
「え、えぇ、そんな大それたもんじゃないよ。気軽にソルダムとか呼んでくれればいいよ」
「ハイ、SOLDUM師匠!」


 この日から、俺達は師匠を見つけては試合のアドバイスもらって、頂上対決や店内頂上の解説を一緒に聞きまくって、いつの間にか、このゲームが楽しいと思えるようになっていった。

【プレイ回数残:202回】
作成日時:2024/08/28 09:24
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